東京高等裁判所 昭和29年(う)329号 判決
被告人 黒木シツ 外
〔抄 録〕
一、弁護人Aほか五名の控訴趣意中、(1)「被告人黒木シツ、同深井よ志関係」第一点、(2)「被告人黒木シツ、同大島みつ江関係」第一点、(3)「被告人黒木シツと同三井田佐久間の事実について」第三点について。
右(1)は、原判示第二い一(ロ)(六)および第二い七の被告人黒木シツと同深井よ志間の金二、〇〇〇円の授受につき、右(2)は、原判示第二い一(ロ)(四)および第二い六の被告人黒木シツと同大島みつ江間の金一、〇〇〇円の授受につき、右(3)は、原判示第二い一(イ)一および第二い二の被告人黒木シツと同三井田佐久間の金五、〇〇〇円の授受につき孰れも原判決に関する訴訟手続の違法を主張するものである。そこで審按するに、一方、右(1)ないし(3)の各金員授受関係につき、その供与者とされている被告人黒木シツに対する各公訴事実においては、その各金員は、同被告人が本件参議院議員候補者鹿島守之助に当選を得しめる目的を以て同候補者のため投票および投票取纏方を依頼しその運動報酬として之を被告人深井、同大島および同三井田に供与したものとされながら、他方、その供与を受けた者とされている被告人深井、同大島および同三井田については、その公訴事実において右黒木シツより右候補者のため投票方を依頼されその報酬として右各金員の供与を受けたものとされており而して原判決においては、右供与を受けた被告人三名に対しても右被告人黒木シツの供与の趣意と相応して右投票取纏方の依頼をも受け且つ之に対する報酬の趣意をも含めて右各金員の供与を受けた旨を認定し而も斯ように認定するにつき原審訴訟手続上訴因の追加や変更等のなされなかつたこと所論のとおりなるは記録上明らかである。
然し、一般に、或る特定の選挙候補者に当選を得しめる目的を以て同候補者のため当該選挙人自身が投票することの報酬として金銭の供与を受けることと、同時に他の選挙人の投票取纏をもなすことの報酬として金銭の供与を受けることとは共に公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号に該当し有形的利益の受領によつて選挙の投票に関する自由公正を害すべき所為なる点において共通の性質を有し、訴訟法上いわゆる基本的事実において同一の所為にほかならない。而して本件においては、前記三名の被告人の公訴事実は被告人黒木シツの公訴事実と併合審理せられ、その黒木の公訴事実に対する証拠には右投票取纏の事実立証の方法も含まれていたこと後述するとおりであるから、この投票取纏方の報酬として認定することも別段右被告人三名に全然防禦の機会を与えずして同人等の実質的利益を害することでもない。故に、原審において右被告人三名につき右金銭の供与を受けた趣意につき特に訴因の追加や変更等の手続を経ずして事実認定に至つたことは敢て違法となすべき性質のことではない。論旨は理由がない。